人に口あり夢もあり エッセイ  菊本みやび


昔の男に会って幻滅することほど残酷なものはないと思う。それが真剣な恋であればあるほど男には別れたのちも素敵でいて欲しいし
「ちっ! 逃した魚はでかかった」
と舌打ちする位であって欲しい。例え元に戻らなくとも、いい男と恋愛をしたという事実。それが自分の価値を高めてくれる気がするから。
 その点、コウスケは会えば会うほど幻滅する男だ。外見はドンドンおやじ臭く、中味はボロボロ廃れてきている。
「世の中は俺を中心に回ってる。俺はビッグになってやる」
 青い時代の大きな野望。
 当時魔法にかかっていた私は、それがとても輝かしく聞こえた。
 その、“あの日あの時あの場所で”口にしていたものと同じ台詞を、疲れきった髭面が口走る。魔法のとっくに切れた私には、それがとてもくすんで聞こえて
「ちっ!」
と違う意味で舌打ちしてばかりだ。
 そんな折、またもや顔を合わせることになったコウスケは、不精髭を摩りながら私をまざまざと見つめて言った。
「おまえはもう死人だな。何も魅力を感じない」
・・・まさに熱い湯を飲まされるとはこの通り。
(あの頃のコウスケは死んだ。目の前にいるコレは果たせぬ夢を追い続けるゾンビなんだ)
 そう言い聞かせていた私自身も、奴からすれば死体だったのだ。
 ハッと息を呑む同席の友人達の前で、私は乾いた笑い声をあげるしかなかった。
 どんな男であれ、昔の男に会って幻滅させることほど残酷なものはないと思う。
 
 死体女の私は、せめていつかは目覚める眠り姫になれるよう努力することにした。