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着物が大好きだ。着ていると落ち着く。
ワードロープはおばあちゃんのお古、母や親戚からもらったおさがりが多い。
時代物の映画やテレビの番組を見ている時も登場人物の着こなしばかりみていて
肝心のストーリーは二の次。
普段の生活も昔のおばあちゃんのようにできるだけ着物にしていくのが目標です。
そんな調子だから当然世の中のバーゲン商戦や流行には興味が湧かない。
靴もここのところ同じ物ばかり履いているし洋服は2シーズン何も買っていない。
そんな私の着物をめぐってのあれこれ日記、少しでも着物に興味があるひとはもちろん、
興味が無い人にも読んでもらえるようなものにしたいなと思っています。
玉藻
第1回 老舗デパート呉服売り場探訪
友達2人と日本橋にあるデパートの新春着物祭りへ行ってきた。 先ずは催事場へ。
広い売り場にずらりと並べられた商品の多彩さはさすが創業ウン十年・・。 (でも、もはやこちらのお店ですら呉服売り場があるのは本店だけというキビシイ現状!)
デパートの良いところは敷居が高い呉服屋さんと違い、 商品を心ゆくまで撫でたりさすったり出来るところではないだろうか?
質問をしてベテランの店員さんのうんちくを聞くのも楽しい。 私は以前結城紬について尋ねたところ、1時間ほどレクチャーを受けてしまったことがある。
友人は50%オフの和装用バッグを早々とゲットした後、 名古屋帯仕立てあがり2万円コーナーで足が止まっている。
帯締めを物色している若い女の子集団。 また見るからに玄人とわかるお姐さん達も。華やかなり。
ひととおり見た後、4階の呉服売り場へ。 奥にある特選売り場で 180万円の訪問着や金糸銀糸が踊る袋帯を前にして
一同ばったりと沈黙。需要があるから供給もあるのだろう・・
気を取り直して3人はまっしぐらに地下に降り、食料品を猛烈に買いまくって帰ったとさ。

第2回 Higurashi
神保町裏の路地にひっそりと画家の 金子國義さんのショップ、
「美術倶楽部・Higurashi」がある。
重たい扉を開けるとそこは表通りの喧騒とは裏腹の異空間。
決して広くはないお店の中には装丁本、金の額縁に入った作品や
写真などが無造作に並べられている。 「不思議の国のアリス」の絵、
美しい日本髪の女性が微笑む古い写真。
まるで金子画伯のお部屋にお邪魔したような気持ちにさせられる。
個展に行った時、センセイはいつもどんな音楽をお聞きに なるのでしょう?」と
アシスタントの方に尋ねたことがあった。
流れているのはシナトラ。たまに義太夫や歌謡曲も・・ と聞いて驚いていたら、
ひょっこりご本人が現れて卒倒しそうになった。
「着物がお好きですか?僕も大好きなんですよ。」きらきら光る瞳。
その時私は祖母の形見の雀の着物。黒の道行きに塗りの黒い下駄。
ガラスケースの中の近松の戯曲集と義太夫の本を見てそんなことを思い出した。
煙草の煙がゆらゆらたちこめる中、逞しい若者がふたりソファに
腰掛けて仏蘭西文学について議論していた。
古いシャンソンが微かに聞こえた。
着物>姿のアリスを思い描きながら店を出た。

第3回 蔵
生家には今にも崩れそうな蔵が3つある。
そのうちの一つの二階には箪笥が置いてあって
古い古い着物が入っているらしいと母から聞いていた。
私が大学生の時に祖母が亡くなって以来、その戸は閉ざされたままだったので
よどんだ空気がたちこめていそうな2階まであがる者は誰もいなかった。
この夏父の新盆で帰省した時、その箪笥をふと開けてみようと思った。
蜘蛛の巣払いの箒を持ち、カンテラを提げて頭にはタオルをかぶるという
異様ないでたちで、ぎしぎしと鳴る階段を上がると、
ほのかな灯りにぼおっと浮かび上がったのは古めかしい桐の箪笥10棹。
中でドラキュラが眠っているような大きなながもちも見える。
重たそうな蓋の上には積もった埃。
思いきって蓋を両手で持ち上げ押しあげると、なにかがすっと私のそばを
通り抜けたような気がした。
そこには母の言葉どおりたくさんの着物が入っていた。
肩から袖にかけて白い鶴が舞う大振袖、撫子の絽の着物・・
美しいまま長い年月のあいだ誰にも触れられることがなかった着物たち。
奇跡というものはあるものだと思った。
ジイジイと蝉が鳴く真夏の昼下がり、大きな風呂敷包みを3回に分けて
ふうふういいながら下ろした。
その着物たちが私の部屋で、
もうじきまぶしそうに春を迎えようとしている。

第4回 ロマン
土砂降りの雨の中、アンティーク着物の展示会に行った。 大正時代の物という唐織の丸帯にひかれたけど、お太鼓になる部分に目立つ染みがあったので随分迷ったあげくあきらめた。がっかり。
雨宿りをかねて寄った古本屋で、母が大ファンだったという「蕗谷虹児」と昭和初期の挿絵家「高畠華宵」の画集を見つけた。長い間探していた本だった。
蕗谷虹児のアールデコに影響を受けた画風。大正から昭和にかけての夢見る少女達の世界。白地に青のぐるぐる模様の浴衣に、エンゼルフィッシュ帯の少女の絵は『星の逢う夜』という題名がついている。なんという斬新なデザインとタイトルだろう!
中原淳一の絵にもたしか渦巻き模様の着物があったっけ・・
もちろん母にもおみやげに一冊買った。
華宵の四季の着こなしを描いた絵からは当時の風俗が感じられて楽しい。美しい色と柄の組み合わせ方など、着物を着る上でとても参考になる。生涯独身を通
し、美しいものに囲まれて暮らしたそうで、その私生活も気になる。どんな家でどんな風に暮らしていたのだろう。
外へ出ると雨はあがっていた。隣のカフェでゆっくり本をめくることにしよう。着物を買えなかったことなどすっかり忘れて・・ああ幸せ!
*丸帯・・両面に刺繍などの模様がほどこされたフォーマル用の帯

第5回 映画のキモノ
着物が大好き・・でも世の中は圧倒的に洋服主流。
着物を普段に着るようになってから出先で和服姿の人に会うと、
しげしげと見る癖がついてしまった。
いつのまにかそれが楽しみになってしまって、電車に乗っても街を歩いていても
きょろきょろしている。
幼い頃、まわりには和服を普段着にしている人はまだたくさんいた。
ほんの30年くらいの間に日本は随分変わってしまったなあと思う・・
あまり他人様をじろじろ見るわけにいかないが、
映画の中の女優さんならいいだろうということで邦画ファンになった。
絢爛たる豪華な着物の競演、「細雪」、
大胆でこってりとした明治のコーディネイトが堪能できる漱石原作の「それから」、
芸者置屋の日常が見える「おもちゃ」、
小津安二郎監督の「彼岸花」はカラー作品で昔の人のさりげない日常着が素敵。
着物を着たときの仕草の美しさや振舞い方なども
映画でたくさん勉強できる。
こうして色々な作品をみると、着物のデザインの斬新さや自由さに改めて感心する。
デジタルの技術がもっと発達したら、集めた映像を編集して素敵な着物の映像アルバムにするのが夢だ。「ニューシネマ・パラダイス」のラストシーンの着物版といったらわかり易いだろうか?

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