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あれは去年の暮れ。大掃除の最中、突然現れた!23年前の水着姿の私の写真。上半身からのかなりのアップ。場所はビーチでもプールでもない。室内で撮られたその写真はアイドルに憧れていた私が、ホリプロスカウトキャラバンのオーディション用に撮った写真・・・ではない。全国美少女コンテスト用・・・でも当然ない。(しつこいって!)写真に写っている高校生の私は、色気もない黒の水着を着て、イカツイ目でカメラを睨んでいる。
「おぉ・・・お前こそあの幻の女子プロレスラー・ハムラーじゃないか!」
私の父は大学時代ボクシング部に所属して、(自称)かなりの選手だったらしい。当然プロボクサーに憧れていた。しかし、厳しい親に猛反対され、泣く泣くプロの道を断念したという。その後、彼は結婚し、そして親となった。親の叶わなかった夢を子に託すのはよくあるパターンで、父も例には漏れず、自分の子供をプロボクサーにしようと決めていた。
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しかし、生まれてきたのは2人とも女の子。今でこそモハメド・アリの娘がボクサーとして活躍?しているが、当時女のボクシングといったら、「乳丸出し→酔っ払いオジサン大興奮!」という見世物小屋テイストのものしかなかった。それでも夢が捨てきれない父は考えた。
「そうだ!娘を女子プロレスラーにしよう!」と。
病弱で小柄な姉と頑丈で大柄な私と・・・勿論父の矛先は私に向けられた。とにかく幼い頃から私は「ゆかりお前は絶対プロレスラーになるんだぞ!パパはお前のマネージャーだ!」と呪文のように聞かされ、女子プロレスのビデオを見せられた。それはまさにチチロー並みの熱心さだった。しかし、チチローと父が明らかに違った点、それは子供のやる気がまったくない!という点だった。
「痛いのいやだし・・・、悪者にフォークで頭刺されたら怖いし・・・」
「いや!受身をマスターすればそんなに痛くないんだ!それに悪役が怖いんだったら、ゆかり、お前が悪役になればいいんだ!」
「 そうだ!ゆかり、お前のリングネームはハムラーだ。コスチュームは体にぐるぐる巻きのロープ。そして、リングに上がってこう言うのだ!ハムラー参上!そして体のロープを引きちぎるんだ!なんだかとっても強そうで、かっこいいぞ!」(どこがかっこいいというのだ?)そう言うと父はカカカッと笑った。
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とにかく私は18歳=女子プロレス応募年齢の上限になるまで、父からハムラーとしての洗脳教育を受けさせられた。
高校3年生となり、卒業後の自分の進路を考える時期が来た時、私は迷った。あっ!間違えた。何も迷いはしなかった。躊躇うことなく大学受験を選択した。大学で何を学ぶかというよりも、当時の女子大生ブーム、そのスポットライトの中に身を置くことを夢みて、勉強に励み、入試の傾向と対策を・・・より、CanCamを読み漁り、女子大生ファッションの傾向と対策に精を出していた。そんな娘を見る父の目はどこか寂しげだった。本当に今にも溶けてなくなるんじゃないかと思うくらい父はかなり悲しげだった。プロボクサーになる事を夢みて、ボクシングに精を出していた青年の夢は叶わず・・・子供に夢を託そうと、また18年間頑張ってきたというのに・・・我が子は今全く違う道に進もうとしている・・・親のいう通りに育つ子供なんていないのはわかっていても、ダブルで夢が破れたそのショックたるや相当なものだったに違いない。
大学の願書作りに精を出していた私は、日に日に溶けてドロドロになっていく父を傍で見て何とも不憫に感じられてならなかった。
そして、18歳=女子プロレス募集年齢上限のラストチャンス、父が溶けてなくなる前に最後の親孝行をすることを決心した。というとカッチョイイが「どうせ受かる訳がないもんね!」という絶対的自信が私にはあった。女子大生としてチヤホヤされる(思い込み)この私が、汗と根性、おまけに男禁!の女子プロレス界の住人に選ばれるはずがないのだ!まぁ一応書類を出して、それで落ちればあの父も納得するだろう。そう思ったのだ。
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父に女子プロを受けることを言うと、まるでハイビジョン撮影による「雪だるまが消えてなくなるまで」の映像を瞬時に逆戻しにしたかのように見事に復活した。目にはキャンプファイヤーができるくらいの大きな炎がメラメラ燃えあがっていた。
大掃除で出てきた写真。それは、ハムラーの誕生を夢みて、ハムラーのマネージャーになることに情熱を燃やしていた父のアドバイスによって撮られた1枚である。いかにも強そうな黒い水着で、顔もイカツク・・・。大学の願書と同時に私は女子プロレスの応募用紙にその写真を添え、ポストに投函した。
数日後。1通の封書が届いた。差出人は女子プロレスの事務所からだった。軽い気持ちで封を開いた私はまるで絵画のように固まってしまった。その姿はきっと「ムンクの叫び」を地でいっていたに違いない。
「おめでとうございます。あなたは第1次書類選考に合格されました。つきましては×月×日に運動のできる服装でジャンプシューズを持って・・・」なんと私はハムラーの道への切符を手に入れてしまったのだ! オーマイガーーーーー!!!
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しかし、その後女子プロレス界にハムラーという悪役は現れてない。私は結局オーデションに行かなかったのだ。父は落ち込んだ? 多分かなり凹んだと思う。しかし、そんな父以上に立ち直れなかった人物がいた。そう!この私である。身長も体重も勿論水着1枚、ありのままの姿で出した書類で、女子プロレスラーとしての素質を買われたという私のショックたるや相当なものだった。それもCanCamに出てくるような女子大生を夢みていたお年頃の私の!
その上、肝心の女子大生への切符であるが、こちらはスカで私は夢みていた渋谷でデートの女子大生ライフから一転、代々木を拠点とした浪人生ライフを送ることに・・・。(場所は近いんだけどね。いや、そーゆー問題じゃない!)父の溶けてなくなるどころの騒ぎではなかった。私なんか南極の氷が一晩にしてすっかり溶けて流れ出した状態。父に入る隙など与えなかった。
今、父は孫である私の子供・娘に矛先を向け始めてる。彼女は4歳にしてボクシング、K1、プロレス観戦が大好きときてる。戦いごっこもお気に入りだ。彼女こそ本物のハムラーになる人間なのかもしれない。
いつの日か、体がロープでぐるぐる巻きの「ハムラー」という一見変わったレスラーを見かけたら、それは私の娘である。ついでにどうかリングサイドに目を移して頂きたい。老体に鞭打って加勢している爺さんがきっといるはず。そう、それは紛れもなく私の父である。 |