●創作ラブストーリー
a fine day  エッセイ      MK−Rose


 窓から外を眺めるとスクランブル交差点を歩く人たちが豆粒のように小さく見える。私もこの店を出てエレベーターを降り、交差点を歩けばその中の一人になる。そんな事を考えながら熱いコーヒーを一口飲んだ。テーブルに広げたシステム手帳の今日の日付けのところは空白。何の予定もないのに、朝早くからホテルの最上階にある店でコーヒーを飲んでいるのには訳がある。今日は私の30回目の誕生日なのだ。休日と重なった今年の誕生日。一日中家でゴロゴロしているなんてできない。一緒に祝う人がいないのなら、せめて自分一人でカッコ良く誕生日を祝いたい。そう思って朝から気合いを入れて化粧をし、買ったばかりのワンピースを着て街にやって来た。間違っても淋しいからって友達に電話するのだけはやめようと、携帯電話も家に置いてきた。
 コーヒーと簡単な朝食を済ませてホテルを出ると、日差しはやけに眩しかった。いいお天気だから散歩でもしようかと、近くにある国立公園へと向かって歩いた。ハイヒールの足が少し痛かったけど、ここはオシャレのためにがまん、がまん。
 公園の中には大きな池があってまわりにベンチがいくつか並んでいる。そのひとつに腰をおろした。休日の朝の公園には意外と人がいることを知った。ジョギングしている人、たぶん前日から一晩中一緒に過ごしたカップル、家族連れ。オフィスビルの中での生活に慣れている私にとって、なんだか新鮮な風景だった。空を眺め、風を感じ、自然の音を聞きながら私は昔のことを思い出していた。
 20歳のときにつきあってた男の子の事だ。お互いに恋愛経験もそれなりにあったはずなのに彼とは純愛だった。つまりプラトニックな関係のままだった。10年経ったら結婚しようって約束した。でも彼は突然、海外留学してしまってそれっきり連絡が取れなくなってしまったのだった。なんで急にこんな事思い出すのか自分でも不思議だったけれど、彼との関係は今ここで感じている気持ちのいい風景と同じくらいに心地よかったのだ。彼がいなくなってがっかりしたけど、つらいとか感じなかった。また会えるような気がしたからだった。でもこの10年再会することもなく、思い出す事もなかった。
 午前中は公園でずっと過ごして、午後からは少しショッピングでもいこうと街の方へと戻った。今年の自分の誕生日のプレゼントを探そうと思った。25歳から毎年自分にプレゼントをあげているのだ。去年はちょっと高価な財布を買った。今年は何にしようか。いろいろ迷ってアクセサリーにすることにした。プラチナのプレスレットを探そう。さっそく店を見つけて入ってみた。「贈り物ですか?」と聞かれて「はい。」と小さく答えた。自分へのプレゼントなんて言えないけど。いろいろ迷ってシンプルな細いチェーンのブレスレットを選び、「これにします。」とお店の人に言った。
 その時、「僕が払います。」と私の後ろからクレジットカードを差し出す男の人がいた。びっくりして振り向くと知らない人だけど、彼はニコニコと笑っている。「公園からずっと君の後を歩いて来たんだ。」新手のナンパかストーカーか。私が神妙な顔をしていると、彼は自分カードを私の目の前に見せた。そこに書いてある名前を見て息をのんだ。10年前のあの彼だった。
 「はい。お誕生日おめでとう。」彼はきれいに包装されたさっきのブレスレットを私に差し出して言った。
 「ありがとう。でもよく誕生日覚えてたね。それよりどうして公園にいたの?どうして私の事わかったの?」久しぶりだもの。話は山のようにある。そして私はまた自分への誕生日プレゼントを選び直さなきゃならなくなってしまった。
 オシャレしてきて良かった。…今日はいい日になりそうだ。