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あっ、と声を上げていた。私の机の上の消しゴムが、止める間もなく取りあげられたからだ。
「消しゴム借りるぞ」
そう言って、彼が私の机の上で、紙にある字を消していく。今日が提出の、英語のプリント。それを今やるのは、実に彼らしい。膝立ちになった彼の、頭部のつむじが見える。机を遠慮なく使う彼は、当然のように私のシャーペンも使う。彼が消しゴムを脇に置いたので、すぐに回収しようと、私は手を伸ばした。
「なに」
彼が顔を上げ、消しゴムを素早くおさえた。眉をひそめて、私を真っ直ぐに見返している。
「その消しゴム、小さくて使いにくいでしょ。だから、他の子から借りなよ」
「まだ使うから」
私の言葉を無視して、消しゴムを手のひらの中におさめる。だが私の表情から、何か感じるものがあったらしい。消しゴムをしげしげと見つめた。
「これ、おれの名前が書いてある」
私は手にじっとりと汗をかいていた。汗ばんだ手を、スカートにおしつける。中学生にもなって、おまじないをやっている自分が恥ずかしくなった。そして、とうの本人にばれたことも。
「お前が書いたのか」
仕方なくうなずく。
「なんで」
私は目を泳がせて、必死に言い訳を考えていた。どうやら、彼はこのおまじないを知らないようだ。だったらごまかせるだろう。
好きな人の名前を、自分の消しゴムに書いて、誰にも知られずに使い切れば、想いは成就する。それがこのおまじないだ。
「呪いよ」
「呪い?」
「そう、消しゴムに名前を書かれてしまった人間は、呪われるのよ」
「お前、なんってことをするんだよ。嫌なヤツだな」
「でも、条件があるの。この消しゴムに書いてある名前を誰に
も見られず、全部使い終えたときにしか、呪いはかからないの」
「じゃあ、おれは運良く呪われずに済んだんだな」
「まぁね」
彼はふうむ、と唸った。そして改めて私の顔を覗き込んで、にやりと笑った。立ち上がって、彼は自分の席へと戻る。
見守っていると、彼は自分の消しゴムを取り出し、何やら書き込みはじめた。
終わるとすぐに、満面の笑顔で私に近づいてきた。
「ほら」
私の目の前に消しゴムをかかげる。それには、私の名前が書いてあった。
「これでお前に呪いがかかるな」
「だから、人に見せたら駄目なんだってば」
彼は一瞬きょとんとした顔になったが、気づいて、そうだったとつぶやいた。
「やり直しか」
肩を落として、彼が言う。
「いいよ、やり直さなくても。だって私、もう呪われちゃってるもん」
「落ち込むなって。おれがといてやっただろ。だから感謝しろ」
「呪いがとけた、って分かったら、感謝してあげる」
私がお礼を言わないせいか、彼はふてくされたようだ。今度は私の机を目一杯使って、紙をアルファベットで埋めていく。指を動かすのに合わせて、彼の頭がかすかに揺れる。
やっぱり呪いはとけていないらしい。彼に机を使うのを許しているのだから。
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