Hard to say I'm sorry 創作短編ラブストーリー 湖那津杏樹
「もう絶対許さないんだから。」
彼女はドアをばたんと閉めるなり独り呟いた。
いつだって自分勝手なあの男。
ヘラヘラ笑ってばっかりいて、誠意を見せてくれたことなんて一度だってないんだから。
男なんてアンタだけじゃないのよ。
彼女は着替え、化粧を直すと夜の街へ飛び出して行った。
「おねえさん、お茶しようよ〜」
その彼は街角で相も変わらずナンパにいそしんでいた。もちろん成功したためしはない。趣味みたいなもんだ。
ポケットに両手を突っ込んで歩きながら、さっき泣きながら走り去った彼女の顔を思い出していた。
と、角から人影。
彼女が、彼の知らない男に肩を抱かれてこちらに歩いてくる。
彼は咄嗟にビルの間に身体を隠した。
彼女は少し戸惑いながらも、男に身を任せていた。
彼は少し、頭にちりちりした感触を覚える。
なんだあの男は。思わず拳を握り締めている自分に気付いた。
だがその場に踊り出ることはできなかった。
俺にはそんな権利はない。
彼は煮え立つ嫉妬心を押さえつけて彼女等の後姿を見送った。
自分でもよくわからない怒りと悲しみに支配された彼は、気がつくと彼女の部屋の前に居た。
ドアには鍵。中に入ることもできない。
そのうちに雨が降り出した。風に煽られ冷たい雫が頬に当たる。
彼はいつのまにかうとうとと眠り込んでいた。
どのくらい時間が経ったろう。彼女が重い足取りで階段を上ってきた。
彼の姿を見つけ、彼女の足は速まった。
が、近づいても目を覚まさない。
ホントに仕方ない人ね。
起こそうとしたとき、彼の右手に花束が握られているのに気がついた。
黄色い水仙。
花が好きな彼女にはすぐに解った。花言葉は「もう一度愛してください」。
いつまでたっても素直じゃないなあ。
苦笑いを浮かべながら、彼女は彼を揺さぶった。
「お客さん、終点ですよ。」
目を開けた彼に、彼女は皮肉げに笑ってこう言った。
「何してるのよ、こんなところで。」
彼も口元を緩めた。
「オマエも、素直に嬉しいって言えないのかよ。」
そして、彼女を花束ごと抱き締めた。
<おわり>
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