FILE.3 二世代離婚
【前編】借金地獄 06.10.31
 メイさんは30歳。小学生の2人の子どもを育てながら、ファミリーレストランでパートとして働いている。20代前半にも見えるほど若く、美しい。店にくる大学生に「彼女、携帯(番号を)教えてよ」といわれることもある。「高校生に間違われることもあります。根がしっかりしていないんでしょうね。落ち込んじゃいますよ」と自嘲気味に微笑んだ。
 22歳のときに、付き合っていた男性との子どもができて、結婚した。今や、なにも珍しいことではなくなった「できちゃった婚」。相手は、四つ上の26歳。塗装の仕事をしていたが「結婚を機に独立したい。おまえと子どものために家を建てるためにも、会社をもってがんばりたい」と夢を語った。
 「自分には夢なんて何もなくて、なんとなく専門学校を出てフリーターやってましたから、彼を応援したいと思いました。やさしかったし、私の相談相手になってくれる。(口数の少ない)私と違って弁がたつし、どんな話にも説得力があった。生まれて初めて、頼りにできるって思った存在でした」。
 そのうえ、お互い母子家庭に育ったという共通点があった。相手は一人っ子で小さいときに父親を病気でなくしていた。対するメイさんは3人きょうだいで弟がひとりいたが、小学5年のときに、父親の借金癖が原因で両親は離婚していた。
 「子どもが寂しい思いをしなくてすむように、明るい家庭を築こうね」。彼はそう言った。「涙がこぼれましたね。がんばって彼を支えていこうって思いました」。結婚する前から、彼はすでにメイさんと母親が住む家に転がり込んでいたため、そのまま3人の同居生活が始まった。おなかはどんどん大きくなり、彼女は当時事務員として働いていた勤務先を退職。夫は会社を始めたばかりで忙しく、帰りも遅くすれ違いの日が続いていたが、彼女は幸せだった。

 「ああ、夢に向かっているんだなって思い、寂しい夜も我慢できました。ただ、私はこのままうちで同居するっていうことが、心にひっかかっていました。結婚するんだから、家を出てちゃんと自立しようよって言いましたが、彼は出産とか子育ては大変なんだから、お義母さんが一緒にいてくれたほうがいいとか、まだ経済的に自信がないというので、うやむやなままで。あと、お金がないのはわかっていたけれど、月に3万ほどしか家にお金を入れてくれなかったので、大丈夫かな、(会社が)やっていけてるのかなって不安でしたね」。
 彼女の不安は、的中する。
 臨月に入ったばかりの彼女に、夫は「会社が苦しいからお金を借りたい。名義を貸してくれ」と言った。彼女は迷ったが、夫への不安や疑念を夫を応援したい気持ちで打ち消した。貸付金額の書かれていない紙に、二度、名前を書いて判を押した。出産直前には、夫に頼み込まれて消費者金融にお金を借りに行かされた。カードを作るまでの、あの不安で屈辱的な時間を今も覚えている。
 「それなのに、借りてきてといわれて、お金をおろしに(借りに)行くとき、彼は10万必要だったら、11万借りてっていうわけです。端数の1万円で、何かおいしいもの食べに行こうか、って。うちの母も連れて行く。その繰り返しでした」。
 カードを機械に入れるまでは手が震えた。

 けれど、出てきた1万円札の束をみると、ほっとする。気持ちが満たされるのを、彼女ははっきりと感じていた。
 「夫は大丈夫だからと明るくいうんです。口がうまいんですよね。出産費用の30万がないときも、すぐに仕事で百万円入るから借りておいて、といわれました。それで、私も信じてしまう。彼が働いて返してくれるんだから、と」。
 けれど、そんな信頼はじきに崩れた。
 一人目を出産後、数か月して二人目を妊娠してしまう。子育てに追われながら、つわりに襲われる。肉体的に精神的にもつらい日々の中、事態はさらに悪化していった。
 「借金地獄、っていうけど、本当に地獄そのものでした」。メイさんはハンカチで顔を覆った。(次週に続く)