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FILE.2 父親への手紙
【後編】愛されなかった父 06.10.17 |
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ナツコさんが父親に手紙を書こうと思ったのは、ある出来事と発見があったからだ。
仕事が忙しかった彼女は、風邪をひいた子どもを実家に預けた。母親は快く預かってくれたが、数日間の看病の間に子どもの風邪をうつされ発熱。足元がふらついたらしく、自宅の2階から階段を踏み外し転落してしまった。
脳震とうを起こし、母親は一時入院。幸い単なる脳震とうで脳にも異常はなかったが、彼女が病院に駆けつけると父親が病室のドアの前で仁王立ちになっていた。「おまえのせいだ! おまえがお母さんに子どもを預けたりするからこんなことになったんだ!」。そうわめき散らした。理不尽な言い分に彼女は一瞬怒りを覚えたが、父親の顔をみてふっと違う感情がわいてくるのがわかった。
ふくらんだまぶた、真っ赤な目。ほおを伝う涙。涙をぬぐおうともせず、こぶしをブルブル震わせていた。父親がこんなにも動揺している。自分の妻が倒れたことで――。初めてみた狼狽ぶりだった。
お父さんみたいな人があんなふうになるんだ……。
父親の人間らしいもろさを見たナツコさんは、その日から父親をこれまでと違う眼で見つめるようになった。
自分がないがしろにされたり、話を聞いてもらえないと怒る父。そのくせ、人の話はまったく聞かない父。どうして、そうなっちゃったんだろう――。
ある晩、子育てに悩んで開いたコーチングの本を読んでいたときだ。
コーチングというのは、人の話を聞くのが基本だ。うちのお父さんにも、コレ読ませるといいかもなあ――。本をめくる手が、ふいに止まった。
「あれ? お父さん、小さいときに人から話を聞いてもらったことがないんじゃないか、って思ったんです。4人兄弟の末っ子で、一所懸命勉強して親を振り向かせたかったけど、昔は長男第一じゃないですか。なので、親に可愛がられなかったそうなんです。自分はどうせ、愛されない、どうせ、話を聞いてもらえない。子どものときから、そんなふうにゆがんじゃったんじゃないか。きっと、孤独で寂しかったんだろうなあって」
コーチング論からいうと、そういう人は存在を認めてあげたり、思いに共感してやることが必要だ。
「憎いよ。大嫌いですよ。でも、父だっていつか死んでいく。なんだか父親を褒めたくなって、認めたくなった。で、それを伝えようと思ったんです」。
ナツコさんの承諾を得たので、彼女が書いた父親への手紙をここに記そう。長いけれど、ほぼ原文のままで。
お父さんへ
71歳のお誕生日おめでとうございます。
唐突ですが、今日は「これだけはいつか伝えたい」と思って、今まで機会がなかった感謝の気持ちを伝えたいと思います。
お誕生日に縁起でもないと思わないでください。人間は年齢の順番に死ぬわけではなく、若い私の方が先に事故や病気で口がきけなくなる可能性もあるし、東京大地震やテポドン2が明日にも襲って来るかもしれず、お互いにいつまでも元気に会話ができるとは限らないと思うからです。
お父さんに感謝していること
私を○○付属中学に入れてくれたこと。さらに四年制大学に行かせてくれたこと。
お金をかけて私に教育を受けさせてくれたことが、何よりも感謝していることです。6年間で多くの尊敬すべき教師や生涯の友人に出会い、私の生き方を方向づけてくれました。現在でも深い親交があります。先日も恩師や友人たちに会いましたが、小さいながら自分で事業を起こした友人も多く、刺激されました。
学校選びは時として子どもの一生を左右します。子どもに合った教育を受けさせてくれたことに感謝しています。自分がいかに恵まれた環境の中で10代を過ごしたかが今になってわかります。
「大学に行かせなければよかった」と思われたこともあるかもしれません。しかし私は行かせてもらったことを感謝しています。
娘の生き方、進路に一度も反対せず、黙って見守ってくれたこと。
たとえば私は祖父によく「文学など役に立たない」といわれましたが、お父さんは好きな道に行かせてくれました。(女だから?)運動の苦手な私に無理やり運動をさせることもありませんでした。成績が悪くても「もっと勉強しなさい」といわれた記憶もありません。いわれたけど忘れてしまったのでしょうか? いろいろと心配はかけましたが、とにかくありのままの私を認めてくれたことに感謝しています。あのとき親の言う通りにしておけばよかった、と今になって思うこともあります。結局、子どもは親の思う通りにはならないし、親が口で言うことはまず聞かない。しかし親の振る舞いや生き方からは結果的に多大な影響を受けるのだと思います。
お父さんを尊敬していること。
1,常に知的好奇心をもって、一人で主体的に勉強・研究し続けていること。
2,自分が正しいと思うこと、権利は誰に対してもきちんと主張できること。
3,手先が器用で大工仕事、機械操作をはじめさまざまな手仕事が上手なこと。
4,生き物を大切にすること。植物の栽培が上手なこと。
5,一人暮らしができるぐらい一通りの家事ができること。
6,配偶者を大事にしていること。妻の意見を尊重し、趣味や旅行など、自由に好きなことをさせてあげていること。
(できる人にはとっては当然の事でも、誰にでもできるわけではないのです)
私が44年間生きていろんな人間との出会いを経て、また子どもを育ててきて最近やっと感じたことです。恐らくまだまだわかっていないことが多いのでしょう。しかし、私がお父さんに感謝の気持ちをもっていること、尊敬していること(自分もそうありたいと思っていること)がたくさんあることは、わかってください。もっともっと自分に誇りと自信をもってください。健康を祈っています。
お誕生日に、これまでの感謝の気持ちを込めて
ナツコ。(完結編に続く) |
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