アユミさんは34歳の派遣社員。2年前、32歳で5歳年上の男性とお見合いをした。20代に何度か結婚を考えた男性はいたが成就せず、30代になってからは彼氏と呼べる存在もいなかった。性格は明るくて社交的。ボーイフレンドには困らなかったのに、30歳過ぎて気がつくとひとりだった。
「もう、気がつけばひとり。そして、誰もいなくなった、って感じ。(結婚を)したい人にはフラれて、考えもしない人から迫られちゃって。ああ、私ってもう一生結婚できないのかもって思うと暗くなりました」
暗たんとした気持ちに追い討ちをかけるように、酒井順子さん著の『負け犬の遠吠え』がベストセラーになり、一緒に読んだ母親からも「誰でもいいから、早く(お嫁に)いってちょうだい」と毎日のように言われた。そんなとき、「見合いオバサン」を自認する友人の母親から見合い話が持ち込まれたのだった。
「それまでは正直、ふん、お見合いなんてって思っていました。お見合いするなんてそれこそ売れ残りっていうか、負け犬じゃないですか。負け犬の見合いですよ。でも、でも、2年も男性と縁がないと、さすがにねえ。このままひとりかよ〜っていう焦りが募っちゃって……」
母親に話すと、「今すぐしなさい」とせかされた。追い立てられるようにして、一晩で釣書(身上書)を書いた。慌てていたわりには、スピード写真にせずに写真館を予約し撮ってもらった。
電話した翌日に釣書を持って駆け込んできたアユミさんに、友人の母親は驚いて言った。
「行動的なのね。その行動力があれば大丈夫。きっといい人が見つかるわよ」
あまり根拠のなさそうな太鼓判を押してくれた。
数日後、見合いオバサンからひとり目の釣書を渡された。職業は脳外科医、実家は山の手。東京都下の某市で生まれ育ち、焦りつつも、「結婚したら絶対23区の住人になりたかった。それが結婚の第一条件だった」という彼女からすれば申し分なかった。
ただ、容姿をのぞいては……。
「釣書を見るときって、必ず写真から見ますよね。思わず、ありゃりゃ〜って声が出ちゃったくらいのおブスだった。すぐ閉じましたよ。でもまあ、とりあえずデータは見てみようと。お父さんは医大の大学教授で、おじいさんも医者。お金持ち以外のなんでもないですよ、っていう釣書でした」
一度はこの男性との見合いを断ったが、見合いオバサンに粘られた。
「先方がね。ぜひ、ぜひ、アユミちゃんと会ってみたいっておっしゃるの。まだ未経験なんだからさ。ウオーミングアップだと思って会ってみたら?」と、何度も電話をかけてきた。後でわかったことだが、見合いオバサンはその男性の釣書を預かったまま、はや3年で、モチゴマの中ではもっとも長期在庫だったらしい。
「売らねばならぬ」というオバサンの闘志に圧倒されるかたちで、見合いすることが決まった。
「最初はいやいやだったけれど、当日になると面白くなってきて。まあ、どんな人か、お見合いがどんなものか、経験してやろうっていう好奇心が大きかったかな」
ところが。
実物は写真よりは悪くなかった。しかも、彼は彼女にとって面白い男だった。脳外科医らしく(?)、医者の世界の話やさまざまな世間話は、興味をそそられるものばかりだった。見た目はひ弱で頼りなかったが、彼が口を開いたとたん、その話術に引き込まれた。勝気でどちらかというとせっかちな彼女に比べると、穏やかでのんびりした彼は一緒にいて心が和んだ。
6か月付き合って、プロポーズを受けた。
両親はいい人だった。年収も申し分ない。親から譲り受けた150平米、ルーフバルコニー付きのマンションもあった(もちろん23区だ)。「残り物には福があったね! アユミちゃん」と両親は舞い上がった。
だが、彼女にはひとつだけ気がかりなことがあった。(中編@に続く)
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