FILE.19 カゴの中の鳥〜15歳年上の夫と
【後編】七つ年下の彼 07.10.09
 切り出してから1年半。三つにならない子どもを抱えて離婚した。「おまえから言い出したことだから、おれが慰謝料をもらいたいくらい」といわれ、通帳もすべて渡した。養育費も要求しなかった。
 苦労して離婚にこぎつけた女性なら覚えがあるにちがいない。「別れてくれるんだったら何もいらないから!」 ついそう叫んでしまう、「焦燥感」などという言葉ではくくりきれない感情が。
 「そうなの。とにかくもう、一日でも一時間でも早く夫から離れたかった」
 父親に、「全部くれてやれ。おまえにだって覚悟はあるんだろう」といわれ、彼女も腹をくくった。

 一方、金が入れば男も従順になる。彼女側が出した「今後、私と子どもの生活に一切干渉しない。子どもとも一生会わない」と書かれた誓約書に、あっさり判を押した。便箋に書かれた簡単な誓約書だったが、いとも簡単に署名をし、印鑑を取り出す夫の一連の動作を、彼女は半ば呆けたように見つめていた。
 「(離婚するとなると)子どもは置いていけとか、結構もめるんだろうなと予想していたのに、けっこうあっさりしたもんだなって思って。お金を渡しちゃえばこんなもんなんだって」

 カゴの中の鳥は、こうしてはばたいた。
 「でね、そのあと、鳥さんはどうなったかっていうと……太ったのよ」と言って、カヨコさんはぶはっと吹き出し笑いをした。ストレスでやせ細っていたからだは離婚後、めきめきと脂肪を蓄えたそうだ。周りには「幸せ太りなのよぅ」と言いわけした。さらに、離婚後すぐに運転免許を取り、耳にピアスの孔(あな)をあけた。だれにも干渉されない自由を謳歌した。
 別れた夫はというと、その後も「会いたい」と何度も迫ってきた。離婚後5年間、彼女の誕生日には花束が届いた。息子の誕生日やクリスマスにはぬいぐるみやお菓子。中学入学のときは現金書留で10万円が届いた。
 中学生になってから、息子に離婚したことを話して聞かせた。息子は黙って聞いていた。「18歳になったら、君が会いたいと言えば会わせるよ。こんなにいい子に育ったよって言ってあげたら?」と。息子は何も言わなかった。

 20代でシングルマザーになった彼女に、離婚から数年後新たな出会いが訪れた。今度は7歳年下だった。当時、まだ22歳だった彼は今でもカヨコさんに寄り添ってくれている。
 「一緒にいて安心できる人。まっすぐで、純粋で、思いやりがあって。ずっと待たせているっていう罪悪感から逃れられなくてさあ。もう、いい加減他の人と幸せになってって言うんだけど……」
 「子どもが18歳になるまで、絶対再婚はしない」と決心していた。その息子もじきに18歳の誕生日を迎える。
 「実際、(決心を曲げて)再婚してもいいかなあと思った時期もあったの。でも、(年齢の)七つの差ってけっこう難しくてね。はじめのほうは、うちの子の父親になるには彼がまだ若かった。子どもとも仲良くてね。
今じゃ一番の理解者だよ。でも、父親としてOKってなったとき、やっぱり彼の子どもも産まないと申し訳ないじゃない? でも、そうなると私のほうが子作りはもういいかなって二の足踏んじゃってね」

 不思議なものだ。15歳年上の夫とのギャップに苦しんだカヨコさんだが、今は7歳年下の彼と人生のタイミングが合わない。
 「仕方ないよね。そういう運命なんだって思うわ。でも、彼とは本当にしっくりいってる。幸せだよ。いずれ一緒に暮らしたいと思ってる」
 彼女の目下の悩みは彼の健康管理だ。働き盛りで多忙な彼の体が心配でたまらない。
「出会ったころはあんなに若かったのにねえ。健康診断で血糖値がとか、これでひっかかっちゃってなんて聞くと、なんとかしてあげなくっちゃ、体にいいもの食べさせなくっちゃって、張り切ってお料理作っちゃうの思うの」
 結婚という名称ではないけれど、カゴじゃない愛の巣を持つ彼女は、うらやましいほど輝いていた。
(終わり)
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