FILE.16 格差婚
【前編】ご一緒感覚 07.06.26
 藤原紀香さんと陣内クンの格差婚が話題になったと思ったら、宮崎あおいちゃんがどなたか俳優さんと結婚するらしい。こちらもお相手の男性が「うちも格差婚です」と自虐的なコメントを出してたっけ。

 実はイクコさんも、相手男性との「格差」に悩んだことがあるひとりだ。
 付き合っていたシンゴ君は有名私大の付属小、中、高、大と、まさにエスカレーター人生まっしぐらの人。イクコさんも有名女子大卒だが、こちらは地方の県立高校から一浪して入学した苦労人だ。同じ業界で給料も同じくらい。ふたりの経済事情に格差はなかった。
 デートは割り勘だし、ドライブの際に彼が乗ってくる車は国産車。クリスマスと誕生日にホテルのレストランへ連れて行かれたが、そのあとホテルに泊まるでもなく彼女のアパートに直行した。ガード下の焼き鳥屋やおでん屋を、彼は好んでいた。「普通の男の子」という印象だった。
「まわりには玉の輿ねえって言われたけど、私は、わたしら一緒ヤンって思ってました。ご一緒感覚でした」

 「合コンで知り合って、交際申し込まれました。やさしくていいひとだなって思って。でも、プロポーズされて彼の家に行って驚きました」
 自宅は都内の一等地に200坪ほどの邸宅。彼は「親父は普通のサラリーマンだよ」と話していたが、実は大手メーカーの社長だった。しかも父親は東大卒、専業主婦の母親も有名私大の出身で、政治家夫人などと同級生という筋金入りのお嬢様だった。

 「かたやうちの実家は、小さなクリーニング屋なんです。全国チェーンのクリーニング店に押されて、今にもつぶれそうな感じ。大学は奨学金もらってなんとか卒業できました」
 父親は、「学のある女は始末が悪い」と大学進学さえ反対した。が、成績のよかった娘をかばってくれた母親のおかげで、東京進出を果たしたのだ。
 朝、新聞配達をしたり、内職で仕送りを工面してくれた母親。クリーニング屋の跡取りとして店が盛り返すまでと、彼女に結婚を待たせているうちにフラれてしまった三つ上の兄。彼女が商社に内定した時は、電話口で泣いて喜んでくれた兄だった。「それぞれ所帯持ったら、お金貯めて、熱海なんかに親を旅行に連れて行ってやろうな」と約束していた。

 招かれた彼の家に、イクコさんは圧倒された。トイレは三つ、バスルームは二つあった。妹たちは母親を「おかあちゃま」と呼び、「鎌倉のおばあちゃまは来ないの?」などという。イクコさんは「じいちゃん」と呼んでいる実家の祖父のステテコ腹巻姿を思い出し、気持ちが沈んだ。
 両親は気さくでよい人だったが、話の内容よりも、彼らの履いている黒い革のスリッパや夫婦おそろいの高級ブランドのトレーナーに気を取られた。
 そして、彼の家が元華族という由緒ある家柄であること、一家で海外の生活が長かったこともその日知った。母親は「そろそろサパーにしましょうか」と言い、金縁の皿に得意料理だというビーフシチューや蟹サラダを運んできた。(サパー? 夕ごはん、ちゃうんか!?)と胸の中で突っ込む自分がいた。

 母親に「イクコさんのお父様のお仕事は?」と尋ねられた。「自営業です」と小さな声で答えた。返答した声のあまりの暗さに、家族全員が押し黙った。けれど、彼が沈黙を破るように、イクコさんがいかに仕事ができるかなどを話し出した。父親は「これからは、優秀な女性を登用できる企業が伸びて行くんですよ。頑張ってください」とやさしい微笑を向けた。
 ただ、その瞬間、母親が無表情で立ち上がったのを彼女は見逃さなかった。デザートのグレープフルーツをトレーに並べて戻ってきた時は満面の笑みだったが……。そして、話題は式の日取りや場所の話に発展。なごやかに「サパー」は幕を閉じた。
(次週に続く)
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