財布を分けたことで、お互いに自由裁量のお金が増えた。そのせいか、夫は仕事帰りに遊んでくるようになった。パチスロにはまったようだった。夫婦の時間はますます減っていった。
「それと……。お話しにくいんですが、ある日うちのパソコンに有料のエロサイトの履歴を発見したんです。問い詰めると、ウイルスのせいで知らない間に入っていってしまった、なんていいわけするんですが、絶対おかしいと思っていました」。
実は、婚約した当時からすでにセックスレスだった。拒絶したのは夫のほうだ。
「新婚旅行は、私のほうから誘わないと応じてくれませんでした。その後は一切なしです。理由をきくと『(結婚して)安心しちゃったから』というんです。私は自分から誘うこと自体が屈辱でした。それでも、してくれない。『恥ずかしいから』なんていうんです。普通、結婚してから、お互いのことを少しずつ深く理解し合うようになるっていいますよね。でも、私は夫のことがどんどんわからなっていく一方でした」。
一方のユイコさんも、仕事帰りに同僚と夕食を済ませて帰ってくることが多くなった。そのうちに、心とからだに溜まった寂しさを埋めてくれる男性が現れた。
「彼は私よりもずっと年上。35歳でした。仕事で独立を目指していて『ぼくは仕事でやりたいことがあるから家庭も子どもも持たない』という人でした。人生に確かな目標があって、すごくまぶしく映りました。ああ、私も頑張ろう。しっかり目標をもとうって刺激になりました」。
最初は一緒に夕食に出かける程度の仲だったものの、そのうち関係を持つようになった。職場不倫。独身で家庭をもつことを考えていない彼との不倫なら、お互いに割り切ってつきあえた。
とはいえ、夫以外の男性を知った彼女は、知らず知らずのうちに夫と比べていた。
出社するのに髪型や服装が整っていなくても平気な夫。共働きなのに家事を一切手伝わない夫。テレビゲームばかりで本を読まない夫――。
仕事ができて、きちっとスーツを着こなし、待ち合わせの時はいつも本を読みながら待っている彼――。
レストランで彼がパスタを取り分けてくれるしぐささえも、ユイコさんは頼もしく感じた。つきあいはじめたころは、「家庭はもたない」いう彼の行き方を理解し、共鳴さえしていたのに、関係をもつといっそう彼にのめりこんでいった。眠る前、目を閉じてから彼との将来をひとりで思い描くようになった。
「彼に夢中でした。私はスキだらけだったと思います」。
めずらしく夫と一緒にいた夜、彼から携帯メールが入った。(彼からだ)そう思った彼女はあわててメールを切ってしまった。不自然な態度に気づいたようで、問い詰めてきた。
「(男が)いるんだよね。いつからなの?」
仕方なく、白状した。夫は意外にも「相手が好きなら離婚してもいいよ」と言うのだった。
「私にはまだ、そこ(離婚)までの気持ちはありませんでした。彼との生活に疲れていたこと、夫はいつも帰りが遅くて何をしているかわからない。そんな不安を夫に打ち明けました」。
すると、今度は夫に、営業に出ていた時に事故を起こしたこと、その処理もあってずっと残業続きだったことなどを打ち明けられた。何も知らなかったユイコさんは「なぜ、教えてくれなかったの?」と逆に問い詰めた。
夫の答えはこうだった。
「だって……。怒られると思ったんだよ。君は僕に、いつも自分のことは自分でやれっていうじゃん」。
まるで、悪さをした子どもが母親に叱られ、いいわけでもしているような口ぶりだった。(次週へ続く) |