メールがきっかけとなって、ユイコさんに会うことができた。
デザイン関係の会社に勤めるユイコさんは30歳。23歳のときに同い年の男性と結婚した。スキーのインストラクターだった彼は専門学校を卒業後、定職に就けず当時はフリーターだった。付き合って1年後、彼が親戚の会社に就職できたのを機に入籍した。
「出会ったのはスキー場です。彼はジャニーズ系のイケメンで、そこがポイント高かったのかなあ。声をかけてきたのは彼のほうですが、私のほうも夢中になっていたと思います。何しろ、私にとって彼は初めての男性だったので……。え? 初めての男性と結婚する不安ですか? うーん。なかったですね。なぜかというと、彼がすごくやさしかったんです。実は私の父は短気で横暴で。いつもいつも、父に気を使う母の姿を見ていましたから。母がかわいそうで仕方なかった」。
父親に関してはいやな思い出しかない。今でも思い出すのは、小学生のころ家族5人で乗っていた電車の中での出来事だ。ある駅に着いて、席が空いたので小さな妹を抱っこしていた母親は座った。ところが、席を空けた人は下車駅を勘違いしたらしく戻ってきて、彼女の母親に席を空けろと言ってきた。さらに、狼狽する母親に対し、「切符を持っているのか!」などと怒鳴りつけたのだ。
「父は少し離れたところに立っていたのですが、からまれる私たちや母から視線をそらして知らん顔をしたんです。やさしさのひとかけらもない人だと、子ども心に思ったのを憶えています。だから、私は知らず知らずのうちに、自分の父親とは違う心のやさしい人を求めていたんだと思います」。
結婚した後も、夫はやさしかった。休日の過ごし方も、お金の使い道も、すべて彼女の思うようにさせてくれた。「君の好きなようにすればいいよ」が口癖だった。彼女は愛される幸せを実感していた。だが、結婚後仕事を辞めた彼女は毎晩、夫を待ちあぐねた。寂しさのあまり、当時住んでいた郊外のアパートを出て、夫の会社近くの都心のマンションを無理して購入したほどだ。
「夫の通勤時間が長かったので、会社の近くへ引っ越せば、もっと早く帰ってきてくれると思ったんです」。
新しいマンションは会社から電車でわずか15分。ところが、通勤時間が短縮されても、夫の帰宅時間は変わらないどころか以前より遅くなっていた。「全然変わらないじゃない? どうして早く帰ってこれないの? 11時までに電話してねっていってるのに、最近は連絡もくれないじゃない!」。
ユイコさんはそんなふうに夫をなじった。
夫は早く帰ってこないうえに、無理して買ったマンションのローンが家計を苦しめていた。寂しさを紛らわそうと飼った二匹の犬にも、餌代、医療費といろいろお金がかかった。夫は帰ってこない、お金もない。周囲に「赤ちゃんはまだ?」と尋ねられたが、結婚当初から、「子どもは欲しくない」と夫には宣言してある。夫は「君の好きにしたらいいよ」と言ってくれてもいた。
とにもかくにも煮詰まった彼女は、再就職することにした。まだ26歳。仕事選びはさほど難しくなかった。このときも夫は「君の好きなようにしたらいいよ」と言った。その後、以前から興味のあったデザイン関係の会社に契約社員として勤めることになった。仕事に有利な資格を取得するため、週に一度デザイン学校にも通うようになった。
「外に出て働き始めると、楽しくて仕方ありませんでした。仕事で自分を評価してもらえるじゃないですか。短大の後ОLもしましたけど、すぐに結婚退職したので新人のままやめちゃった感じでしたから、再就職して、初めて仕事の楽しさとかを味わいましたね」。
それから2年後、いくつかの資格を取得した努力も実って正社員になった。妻の年収はいつの間にか夫の額を逆転していた。この頃から、ひとつだった夫婦の財布を二つにきっちり分けた。マンションのローン、光熱費、生活費と、すべて折半にした。
「初めて(夫から)自立できたって感じでしたね」。
ユイコさんは充実感でいっぱいだった。だが、結果的に、財布を分けたことが夫婦を分断する大きなきっかけになった。(来週へ続く) |