生まれてきたのは女の子の双子。小さく、愛らしくて、エリさんの目には、そのままにしていたら消えてしまいそうなほど頼りなげに映った。けれど、子育てはきれいごとではない。昼夜問わずの3時間ごとの授乳、1日に10回以上取り替えなければならないオムツ、入浴、そして夜泣き。しかも、子どもはふたり……。
「想像を絶する毎日でしたね。ようやくひとりが眠ってくれたと思うと、ひとりがむずがって泣き出す。そうすると、眠ったばかりの子もつられて泣き出すんです。ひとりでは到底無理でした」。
生んですぐは自分の実家に戻った。双子でなくても、最初は実家などでおばあちゃんの手を借りて過ごすのはよくあるパターン。だが、エリさんの両親も疲労の色が濃くなった。なので、今度は夫の実家へ。夫は妹とふたり兄妹だったので、夫の実家では長男の子、初孫ということで大歓迎された。
夫の実家は自分たちのマンションから遠くはない。だが、夫は「週末通い」を選んだ。「平日は仕事が忙しいし、昇級試験があるから勉強に専念したい。自分たちのマンションでゆっくりしたいし、毎日ここに帰ってきたら気が休まらない。週イチで十分だろ」と夫は言うのだ。
「気が休まらないのは、私だって同じじゃないですか。私は夫の実家で気兼ねしながら大変な思いをして子育てしているのに、自分は週末だけ来て、子どもをあやしてるだけ。世話は私や姑がするわけだから」。
慣れない夫の実家での暮らし。たまにしか姿を見せない夫。自分だけが子育てを押し付けられているという思い。加えて姑からは、一度ぴしゃりと断ったはずの同居を、再三迫られるのが苦痛だった。「二階はあなたたちのために空けてるから」と、何度も言われた。姑はもともと嫁のキャリア志向が気に入らなかったようで、テレビのワイドショーで芸能人の離婚会見などを観るたびに、「母親が仕事にかまけるとロクなことがないわねえ」と眉をひそめる。子育てに費やす肉体的な疲労以上に、エリさんのなかで精神的なストレスがふくらんでいった。
そもそも、エリさんは結婚前から常々、「子どもを生んでも働き続けたい。子どもは一緒に育てようね」と力説していた。夫も「当たり前だよ。どんどん仕事して君には成功して欲しい。僕も一緒に育てるよ」と、エリさんを応援してくれていた。
それなのに、夫は週末訪れてもオムツを替えることさえしない。姑たちの前ではいい父親を装っているのに、エリさんと二人でいると態度が違った。「わっ、ウンチだ。きったねー。オエーッ」と叫んでどこかへ行ってしまう。
子どもがぐずり始めると、昇級試験の勉強だと言って、ひとりで近所の喫茶店に消えた。ふたりの子が交替に夜泣きを始めると、「疲れてるんだよ!」と頭から布団をかぶってしまい一向に起きない。仕方なく姑にグチをこぼすと、「うちのお父さんもそうだったわよー。男の人ってそういうものじゃないの?」といい、逆にエリさんの神経を逆なでするのだった。そのうえ、姑から同居の話をされると、それを否定せずにうなずいている夫の姿があった。
「私が陰で『約束が違うじゃない!』って文句を言うと、『自分たちで仕事しながら一緒に育てるから』と、とりあえずは同居を断ってはくれました。でも、ずっと夫の実家にいては、このままズルズルと同居してしまいそうじゃないですか。それに、夫はまったく子どもの世話をしようとしない。私が仕事に復帰した時のことを考えると、このままじゃだめだと思いました」。
子どもは生後5か月を過ぎた。マンションに戻ることを、いつ言い出そうかと思っていたある日。姑に「一緒に住んでるんだし、うちに月ごとでいいからお金を入れてくれない?」と持ちかけられた。見栄っ張りの夫は「じゃあ、先月分ね」と言って、10万円をポンと姑に渡した。(かっこつけちゃって)と思った。
すると、姑は勢いに乗ったのか「そろそろ2階をリフォームしましょうよ。二世帯だから台所を作ったほうがいいわね」と言って、工務店のパンフレットを持ち出した。一緒に見入っている夫の姿を見て、エリさんは唇をかみ締めていた。「もう、我慢できないと思いました」。からだの底から怒りがこみ上げてくるのを止められなかった。(次週に続く) |