FILE.8 お見合い狂想曲
07.02.13
 以前、知人を通じて、『30歳から始まる自分ルネッサンス』の読者だという31歳のユリさんからメールをいただいたことがある。以下のようなものだ。

 ――毎週、興味深く読んでいます。数年前に事情があって会社をやめ転職を試みたのですが、このご時世でうまくいかず今は派遣をしています。実家を出て一人暮らしですし、年齢的なこともあって親が「早く結婚して」とうるさく、一昨年からお見合いを始めました。ちょうど付き合っていた彼と別れたあとだったので、なにか出会いがあったらと何度かお見合いしましたが、なかなかいい出会いはありません。(中略)
 結婚紹介所みたいなところに登録しようかと思いましたが、費用も高いし個人情報がどこまで守られるのか心配もあって登録していません。このままお見合いを続けても時間の無駄のような気がしてなりません。今の派遣先は業績がいいようで正社員の話もありますが、残業しなくてはならないので、ますます相手を探す時間もなくなるような気がします――


 うーむ……。あたしゃ見合い経験もないし、わからん。そんなふうに腕を組んでいたら、お見合いを繰り返したとおっしゃる方に偶然お会いした。彼女の話は数年前で、「いまどき」かどうかはわからないがご紹介しよう。テーマから多少ずれるが(汗)、閑話休題ということで――。
 タカコさんの32歳前後は、「お見合いの嵐」だった。
 「ずっと仕事を続けようと思っていたので、私自身は結婚をしなきゃ困るというものではなかったんです。何が何でも!っていう感じじゃあなかった。それよりもキャリアを重ねていくほうが大事っていう気持ちだった。でも、みんなそうだと思うんだけど、親がすっごくうるさくてね。もし、いい人がいれば結婚するのもいいかなっていう程度で始めました」
 最初にお見合いをしたのは30代後半のエンジニアだった。
 ホテルのティールーム。間に入ってくれた母親の知人(彼女は「お見合いおばさん」と呼ぶ)が、「では、お若い人同士でどうぞ」と立ち去ると、男性はもぞもぞと自分のバッグをまさぐり男性雑誌を取り出した。表紙には『これで完璧!デートコースガイド』みたいなコピーがおどっている。その男性はそれをひとしきり読んだあと、「このへんだったらここのレストランが近いので行ってみましょう」と言って額の汗を拭いた。
 「そういうガイドものって小さい地図が載ってるでしょう。彼はそれを見ながらどんどん歩いていくわけ。あれ、こっちかな、とか言いながら。でも、私も不安になって、あのう、予約はしているんですか?なんて尋ねると、してないと。そこで電話したらたまたま席があった。迷いながらレストランに着いて食事をしたんですが、まったく話も弾まないわけ。帰ってすぐ断りましたね。そのあとも、ほとんどそういう、なんていうか、女性と付き合いなれていないっていうか、そういう人が多かったですね」

 5〜6人とお見合いしたが、もっとも印象に残る相手は、ある自営業の男性。
 「勉強して一流大学を出て親の会社を継いで、っていう方でしたが、やっぱり話が合わない。っていうか、悪いのですが、一緒にいて面白くないんですよ。それで断りました」
 お断りした数日後、彼女が仕事から戻ると玄関に花束が置いてあった。カードがついており、そこには「○・○より」と差出人のイニシャルのみが書かれている。額に手を当て思い巡らすと、どうも前の週の見合いで断った相手と一致する。
「でも、確証はありませんよね。しかも、花屋さんとか宅配やさんが届けたのなら、普通手渡しするじゃないですか。そうじゃないし、送り状も残ってないの。これは自分で持ってきちゃったんだと。でも、うかつに花束を部屋に入れちゃったら、受け取ってもらえたって思われるじゃないですか。なので、そのまま玄関先に置いておきました」

 その翌日。彼女が帰宅すると、玄関先の花束はなんと二つに増えていた。しかも、今度は手紙がついていた。
 「どうして花束を受け取ってくれないのでしょうか。断られるなんて納得できません。君には僕のやさしさがわかっていない……(以下省略)」そんな内容だった。
 「びっくりしました。僕のやさしさがわかっていない、っていわれてもねえ。すぐに紹介してくれたお見合いおばさんに言って、なんとかしてくださいって言いました。おばさんはすぐに先方に電話してくれたそうです」
 ところが、その翌日も花束は増えた。必然的に手紙も追加される。「僕がこんなに一生懸命なのに!」と切実な思いがつづられていた。切実だが、一方的だということがまったく理解されていないのだ。
 花束増える→お見合いおばさんへ電話→お見合いおばさんが彼へ電話→お見合いおばさんよりタカコさんへ、「今度こそわかってもらえたから」の返事――。このような笑い話のような伝言ゲームが数日間続いた。
 そして……。花束の半分以上がドライフラワーになった時点で、何者かの手によって回収された。最終的に、届けられた(彼が持ってきた)花束は八つだった。

 タカコさんはこう振り返る。
 「きっとお見合いなどでいい出会いを体験された方も多いと思います。でも、私個人の結論からいうと、30(歳)過ぎてのお見合いって、あんまり期待が持てないような気がしますね。会話が成り立たない人が多いっていうか、基本的にコミュニケーションが苦手な男性が多かったですねえ」
 まあ、そうには違いない。コミュニケーションが得意であれば、どこかに出会う機会はあるのだろうから。
 タカコさんはその後、何人かの男性と付き合ったものの独身を続けている。
 「いま思うと、自分は結婚には向かないのかなとも思います。それにすっごい結婚したかったわけじゃないし、今もそういう気持ちにはなれないですね」

 タカコさんの経験を電話で伝えたら、ユリさんは「そうなんですよう。いい男はすでにいっちゃってる(結婚している)んですよう」と受話器にしがみつくように言った。「でも、タカコさんはそのあと彼氏はできたんですよね」と安心したようにつぶやくのだった。
 そう。彼女は本当に結婚したいわけではないのだろう。私は、タカコさんの苦情電話を花束男にかけ続けた、お見合いおばさんの悲哀を少しだけ理解できたような気がした。終わり