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FILE.4 子なし夫婦の憂うつ
【中編】お坊ちゃんな夫 06.11.28 |
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資格の取得に成功したアサミさんが転職を具体的に考え始めたころだった。夫の様子がおかしいことに気づいた。
夫が二人で外出する間際になって、「きょう、お金を振込みにいかなくちゃいけないから。劇場で落ち合おう」という。「お互いの小遣いの範囲で、買い物も自由だったので何か通販の支払いかなと思っていたんです。夫のお小遣い? 月に8万くらいだったと思います。それでも月末になると足りないといわれて、よく渋々追加で渡していました。夫がお金に困っているなんて夢にも思っていませんでした」。
だが、回数が重なった。「振込みってなに? 今日行かなくちゃだめなの?」と尋ねると、「今日が(振込みの)締め切りだから」という。「どうも、おかしいって思い始めたんです」。
実は、時を同じくして、家に届く郵便物に差出人不明の白い封書が増えていた。けれど、生真面目な性格の彼女は、互いのプライバシーを守らなくてはとの思いで勝手に開封することも問い詰めることもしなかった。それが夫婦のルールだと思っていたからだ。
「けれど、やっぱり変だなって思って。問い詰めてみたんです」。
眠い目をこすりながら深夜帰宅する夫を待ち、「ちょっと、話させてちょうだい。そこ、座って」と声をかけた。
夫はあっさり白状した。
「サラ金からお金を借りてる」。
「いくら借りてるの? 100万?200万? もっとなの? 300万?400万?」。
こみ上げる怒りを抑えながら努めて冷静に尋ねた。
夫は答えた。「そのくらいかな」。
借金をした理由を尋ねると、夫はこう言った。
「最初、カードの返済が2万ほど遅れちゃうからって思って借りに行ったんだ。そうしたら、あなたの給料だったら40万まで借りられますよっていわれたの。そんなに借りられるなら借りとこうかなって思って……」。
利子を支払うことの負担、要するに「本来払わなくてもいいはずのお金」を利子として支払うことに対し、夫のなかにまったく認識がなかった。アサミさんはその返答に唖然としながら、なぜ早く自分に相談しなかったのかと聞いた。
夫の答えは「だって。アサミちゃんに怒られると思ったから。怖かったんだもん」だった。
「多少借金をしているのかも、という予想はついてましたが、せいぜい100万くらいかなって思ってました。実際に本人の口から聞くとショックでしたね。こちらはマンションのローンをいつ繰り上げ返済しようかと考えていたわけです。転職もしたかったし。でも、夫はなんにも考えていない。しかも、私に『怒られるのが怖かった』ですよ。そこまでお坊ちゃんだったのかって。夫の態度に呆然としてしまって、彼を責める言葉も出ませんでした。子どもがサラ金に手を出したのと同じですもん」。
アサミさんは、夫婦である程度のお金を使って豊かに楽しく生活をしつつ、老後のことも考えていた。「夫が30代後半で背負った住宅ローンは30年払いなんです。少しずつ繰上げ返済をしていかなければ退職金をローン完済にあてなくてはならなくなるでしょう。年金だって私たちの世代はもらえないかもしれないし、こんな時代じゃ夫の会社だっていつどうなるかもしれやしない。退職金だってどれだけもらえるかわからないんだから」。
彼女は今を楽しく過ごすことと平行して、将来に備えての準備もやっていた。二人合わせた通帳は計6枚。「何かのための貯金」「住宅ローン繰り上げ返済用貯金」などと、自分で決めた使途目的で少しずつお金を貯めていた。「夫に裏切られたなっていう気持ちでした。マンションの繰り上げ返済どころじゃないじゃん、って」。
すぐさま、借金返済の相談に乗ってくれる弁護士事務所を見つけ、夫に電話をさせた。「私がしてもよかったんだけど、それだと本人のためにならないでしょう」。弁護士を紹介してもらい、二人で会った。
すべての借金関係の書類を持参し計算してもらったら、借入残高は1000万円を超えていた。3年前、最初に借りた40万円は雪だるま式に増えていたのだ。「膨れ上がった借金を返済できないから、こちらに借りて、今度はそれが返済できなくてこちらに借りてっていうふうに膨らんだみたい。もう、目の前が一瞬真っ暗になりましたね」。
法外な利子を請求されるグレーゾーン金利の分は弁護士が消費者金融とかけあい、返済せずに済むようにしてくれた。それでも、900万円台の借金が残る。マンションを売却して自己破産するか、返済分を二人でローンで支払うか――。弁護士が「選択肢は二つあって……」と説明を始めた。
けれど、妻にはもう一つ「離婚」という選択肢があるはずだ。
夫は「どうしようか?」というふうに妻の顔をうかがったが、アサミさんは視線をそらした。(次週に続く) |
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