|
|
| |
FILE.3 二世代離婚
【後編】母と同じ道 06.11.14 |
|
彼女は立ち上がった。母親に気持ちを話したら「子どもたちは一緒に育てよう」と言ってくれた。そして、夫に判を押した離婚届を渡し、こう言い渡した。
「別れてちょうだい。もう二度と顔も見たくない」。
玄関の鍵を換え、家から夫を締め出した。
その後もたびたび夫からは電話がかかってきた。「やり直したい」と謝ってきたかと思えば、「おまえが離婚を切り出したのだから、借金は払わない」と怒鳴ったり、態度はコロコロ変わった。だが、ある日、「離婚届は出した。これから夜逃げする。会社も捨てる」とだけメールがあってから、音信不通になった。
今度は、取り立て屋ではなく、社員や取引先など会社関係からの苦情の電話が相次いだ。給料の未払い、材料費の未払い、借金の返済を迫るものもあった。
ほとぼりがさめたころ、一つの通帳からお金がなくなっていることに気づいた。
「子どものために」と、彼女が月に五千円ずつためていた定期貯金だった。満期を迎えた12万円は、夫の手でごっそりおろされていた。「生活が苦しくても、これだけはって、手を付けなかったお金でした。それだけは、いくらあの人でも手を付けないだろうとタカをくくっていた私がばかでした。なんか、追い込まれた人間って本当に恐ろしいなって思いました」。
離婚から数年。追い込まれた夫は、今でも彼女から逃げ回っている。養育費も、自分の借金も払わずに。
メイさんは自分名義の夫の借金の返済として、月々8万円ものお金を払い続けているが、精神的にも経済的にも少しずつ立ち直ってきた。近々、子どもの戸籍や夫の借金の返済について法的な機関に相談に行くつもりだ。「実は離婚の際、親権を主張したので子どもたちの戸籍は夫のところにあるんです。でも、こないだ戸籍を取り寄せてみたら……」と彼女は顔を曇らせた。
信じられないことに、夫は苦し紛れに他人に戸籍を売っていた。子どもは見ず知らずの、しかも中国人名の夫婦の戸籍に入っていた。居場所を突き止め、追及したら、しばらくして世帯主は夫の名前に戻ったものの、再婚したことになっており、戸籍上の子どもが増えている。
「夫は再婚していないけど、戸籍を貸しているというんです。とにかく戸籍も取り戻さないと。でも、なんとかがんばろうと思います。私には母もついてくれているし」と彼女は顔を上げた。
離婚の際、母親は娘のメイさんに「まさか、こんなにまで同じ道を歩むとは思ってもいなかった」と言ったそうだ。
父親も、メイさんの前夫同様、度重なる借金が理由で離婚されている。
「小さい頃から、私は父親が大嫌いでした。私は長女だったから、いつも母親のグチを聞かされていて。だから、父親とは一切口もきかなかった。あまりに距離をおいていたから、どんな人だったかも思い出せませんね。借金したお金の使い道も詳しいことは母に聞いてません。なにか、聞いちゃいけない、母の過去を知ろうとしちゃいけないっていうような雰囲気があって。母も話したがらないし。でも、見栄っ張りで自制心がない人だったようです。一度楽な道にいっちゃうと、引き返せない。借金まみれになる人の特徴ですよね。うちの夫も同じタイプの人間だったと思います」。
娘は、時に父親と似た男を選ぶらしい。
しかも、彼女は母親をかばうあまり、小さな頃からずっと「いい子」を演じてきたという。それが思春期になってから耐えられなくなり、高校時代は友人と夜遊びをするようになった。母親から「あんたはしっかりしている子だと思っていたのに」となじられたとき、彼女の不満は爆発した。
「私はお母さんが思っているようないい子じゃない!って言っちゃったんです。本当はずっと、愛情に飢えていたのかなって思いますね。それで、飢えたまんま、父親と似た男とも知らずに彼と結婚しちゃったんですね。きっと」。
子どもの頃からずっと抱えていた心の中にぽっかり空いた空洞を、一瞬満たしてくれたのが、前夫だったのかもしれない。
「今は母とは本当に生きていく同志って感じです。私の離婚があって、前以上にわかりあえるようになったと思います。まだいろいろやらなきゃいけないことはあるけれど、立ち向かうしかないですもん。母も二人でがんばるしかないねって、励ましてくれます」。 彼女たちの「戦い」は、まだ終わらない。(終わり) |
|
|
|