FILE.6 男もハマる結婚の魔力
【後編】慰謝料300万 2005.04.19

 「もう、ひとりになりたい、って思い始めたときです」
 他の女性との出会いがあった。
 相手は会社にきていた生命保険のセールスレディー。人妻だった。「女性に不自由しなかった」というかつてのシングルライフが蘇る。「やっぱ、俺は結婚なんかには向かないのかも」。そう思い始めた矢先に、一緒にバーで飲んでいたところを妻の元同僚に見られてしまう。
 妻は、太一さんを激しく責めた。目の前で鞄をひっくり返され、中のものを調べられた。悪いことに中には彼女からもらったクリスマスカードが入っていた。文面は「いつまでも楽しくやっていきましょうね」。
 妻は逆上した。私たち女性からみれば、妻が怒り狂うのも当たり前とも思う。浮気が発覚したのだから。だが、太一さんは、原因や物事の経過よりも、妻の鬼の形相に打ちのめされた。
 「あんなに穏やかでかわいらしかった妻が、と信じられない気持ちでした。いや、確かに僕が悪いですよ。でも、一回くらい許せよ、っていいたい気分でした。あんなに変貌されると、もう愛情が戻らなかった。目の前から早くいなくなってくれとさえ思いました」
 「いつ帰るの?早く帰ってきて」とすがられるわずらわしさ、父親との確執、結婚当時とのかわいらしさとのギャップ。「一緒に乗り越える? いえいえ。もう、そんなふうには前向きにはなれなかったです」。
 太一さんから離婚を申し出た。妻は最初は「別れたくない」と言い張り、毎日午前2時、3時まで話し合う日が続いた。夫に浮気までされながら、「私の嫌なところがあるなら直すから」とまで妻は言った。けれど、太一さんのなかで、一度離婚の方向にふれた振り子はもう戻らなくなってしまった。
 ようやく離婚の承諾を得てから、妻の母親のところに謝罪に行った。父親代わりだった叔父には罵詈雑言を浴びせられた。
 慰謝料は300万。これが、妻に対する1年間の結婚生活の代償だった。貯金をはたき、残りは分割で支払った。数年間、毎回ボーナスの大部分を充てた。
 「別れてよかった」とつぶやいた父親は、離婚した翌年に亡くなった。「もし、先にオヤジが亡くなってたら」と思うこともあった。けれど、太一さんは最初からこの結婚は失敗だったと思っている。
 「第一に自分は妻の表面しか見ていなかった。第二に、自分自身、まだ結婚して落ち着ける時期じゃなかったのかもしれません。結婚というものに憧れていたんですね。うちのヤツがさ、なんて仲間に言うときの誇らしい感覚ってあるじゃないですか。なんかままごとみたいな結婚生活でしたね。何一つ、自分たちで乗り越えられなかった」。
 父親を亡くした妻は太一さんにやさしい父親像を、母親を亡くした太一さんは妻に何でも許してくれる温かい母親像を求めていたのではないか。

 もしも。
 彼女が仕事に打ち込みたい彼や父親への思いをくむことができたら。
 彼が家で一人で待つ彼女の孤独を思いやり結婚式の無念さをきちんと受け止めていたら。
 なおかつ互いに正直に相手に表現していたら。
 ほんの一瞬でもそうしていたら、事態は違っていたのかもしれない。
 お互いが混乱する時間のなかで、お互いを見つめなおす時間やきっかけがなかった。時間の流れのなかで浮気が起こり、離婚の引き金を引いてしまった。そんな気がする。
 その後、太一さんは、自称プレイボーイらしく8年もの間、独身を楽しんだ。「バツイチ」という勲章?の効果もあってか、女性にはモテたという。
 そして2年前に38歳で結婚した。相手は知人の紹介で会った女性。元妻と同じ四つ年下だった。だが、共通点はそれだけだという。
 「帰国子女でバリバリのキャリア女性です。穏やかでどちらかといえば聞き役だった前の妻とはまったく違う性格。すごいバイタリティーがある。揉め事やけんかがあっても、すごく理性的でして。理論的にこうだから、お互いに思いやりが足らなかったよね。一緒に謝りあいましょ、なんて言うんです。僕は手のひらに乗せられてる感じですよ。セックスも積極的で非常に刺激的です。ああ、オレはこういうタイプのほうが合うんだ、って思いました」。
 趣味も旅行にジョギング、映画にゴルフと、ぴったり合った。
 容姿のほうは?と尋ねたら「前の妻のほうがダントツですよ」と少しだけ残念そうに答えた。
 脚のほうは?「ぜんぜん。オレより太いくらい。でも、脚なんて目に入らなかったですね。気持ちにほれたというか、気持ちに気持ちをもっていかれたというか」と笑った。
 気持ちに、気持ちを、もっていかれる。
 いい言葉ではないか。魂を奪われたとでもいおうか。
 そんな太一さんはいま、「サッカーW杯の年に子どもを産む」という妻の目標に向かって、一緒に走っている。
 「でもねえ、本当にイイ女でしたよ。最初の妻は。幸せになってるかなあ。相手はオレよかいい男なのかなあ」。
 と、やはり、ちょっと懲りてないのが、色白の石田純一らしいのであった。
(FILE6終わり)